第2回 令和7年(2025)12月5日
1.施設概要
加治川の用水施設は、最上流の内の倉ダムから、頭首工(取水施設)、幹線用水路、支線用水路を経て、新発田市、新潟市北区、聖籠町にわたる約6,000haを潤しています。この区域では様々な用水施設が存在していますが、主な施設として、①内の倉ダム、②加治川第1頭首工、③加治川第2頭首工を紹介します。
①内の倉ダム
位置:新潟県新発田市小戸3155(内の倉ダム管理所)
湛水面積:1.00㎢
貯水量:22,200,000m3(農業用76%、上水道5%、洪水調節19%)
ダム形式:中空重力式コンクリートダム
堤高:82.5m
最大放流量:250m3/s
その他、取水移設、放流施設、管理施設等の付帯施設。
詳しくは、新潟県HP(内の倉ダム)を参照してください。
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| 内の倉ダム(上流側の貯水部から下流側堤体方向を望む) |
②加治川第1頭首工
位置:新発田市大槻206(管理事務所)
取水量:12.9m3/s(うち農業用12.5m3/s、上水道0.4m3/s)
形式:フィックスドタイプ全可動堰、堤長74m
可動堰:ローラゲート15.0×2.5m×1門、転倒ゲート28.4×2.0m×2門
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| 加治川第1頭首工の全景(右岸側下流から上流を望む) |
〔加治川第1頭首工の仕組〕 左岸側奥に堰上げゲート、中央と手前右岸側に 転倒ゲート。河川流量に応じて各ゲートの操作を行っています。取水は堰上げゲートのある左岸側から行っています。
③加治川第2頭首工
位置:新発田市西名柄(管理事務所)
取水量:11.9m3/s
形式:フローティングタイプ全可動堰、堤長141m
可動堰:ローラゲート31.8×4.8m×3門、17.8×5.0m×2門
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| 加治川第2頭首工の全景(左岸側下流から上流を望む) |
〔加治川第2頭首工の仕組〕 ローラーゲート操作を行う操作室から5径間、5つのゲートが設置されています。中央の3つが洪水吐、左右端が土砂吐を兼ねた取水のための堰上げを行っており、左右両岸から取水を行っています。
2.新発田地域の農業
新発田地域の農業は、コシヒカリを中心とした水稲栽培を主として、水田の畑利用による大豆、枝豆、アスパラガス等を組み合わせた農業経営が行われています。加えて、施設園芸としてイチゴ栽培のほか、日本海に面した砂丘地ではネギ、ニンジン、サトイモなども栽培されています。
新発田地域で複合経営が発展した背景には、本農業水利施設の整備等による用水の安定供給があり、米の安定生産がなされたからこそ、余剰労力の活用による畑作物や園芸作物の生産が可能となりました。
3.各施設のあらまし
①内の倉ダム
内の倉ダムは、農業用水の貯留、新発田市上水道、洪水調整を目的として昭和48年に造成。その後、発電施設が建設され、現在では4つの機能を持つ多目的ダムとなっています。
当初、昭和39年に内の倉ダムの計画が策定されましたが、昭和41年、42年の大水害を契機に、加治川流域を水害から守る機能も加えた計画に見直され、昭和48年に竣工しました。
発電施設は平成2年に水力発電施設が建設され、最大出力2,900キロワット、年間可能発電量は11,000メガワットアワーの発電が可能で、土地改良施設の維持管理費軽減に役立っているほか、売電等により収益を得ています。
また新発田市の上水道の水源は約半分が加治川に依存しており、加治川の安定流量の確保に内の倉ダムは大きな役割を担っています。
②加治川第1、第2頭首工
昭和30年代までの新発田地域の用水源は、加治川、新発田川、新井郷川とその支流に依存しており、この流域内には大小含め34ヶ所の取水施設がありました。当時の加治川は、雨が降ればすぐに流れ出し、渇水期には水位が著しく低下し、安定した取水が困難な状況でした。
そこで、上記内の倉ダムの竣工に併せて、昭和44年に第1頭首工、昭和45年に第2頭首工が建設され、これまでの取水施設の統合整備と、安定取水が可能となりました。
4.施設の管理
内の倉ダムの管理は新潟県土木部、加治川頭首工の管理は新潟県農地部が行っています。頭首工のゲート操作等は県が加治川沿岸土地改良区連合に操作委託し、河川状況に応じたきめ細かな操作を行っています。
土地改良区連合とは、河川等の流域で稼働する農業水利施設を一元的に管理することを目的として、複数の土地改良区が連合を組織するものです。加治川流域には豊浦郷、加治郷、新発田、聖籠、川東、五十公野、新潟北の7つの土地改良区が存在しており、これらがまとまって連合を組織しています。
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頭首工の巻き上げゲートを操作することで堰上げの高さを調整することが出来ます。土地改良区連合は、河川の流量、水位を元にして適切な水量が取水できるようきめ細かく調整を行っています。
5.加治川の桜並木
1)長堤十里
加治川は、その昔治水にも苦労した河川でした。昔の絵図によれば、加治川は阿賀野川に合流し、日本海に流れていました。そのため、頻繁に洪水に見舞われていました。慶長3年(1598年)、加賀から新発田に入封した溝口家は、6万石の格式ながら、実収入は2万石程度であったと伝えられています。
その後、長者堀の開削や二ツ山の開削を経て、ついに大正3年に直接日本海へ流れ出る加治川分水路が完成し、洪水被害は大幅に軽減されることとなりました。
これにより現在の加治川が形成されました。
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この加治川の大改修工事を記念して、加治川の左右岸に6千本余のソメイヨシノの幼木を植樹しました。その3年後、素晴らしい桜並木が誕生しました。飯豊連峰の残雪と桜堤の美観に多くの花見客がにぎわいました。
満開時には、臨時列車(島潟に臨時停車場)、臨時バス、川船、お囃子なども登場したそうです。隆盛時には「加治川 長堤十里 世界一」とも言われました。(当時の写真は入手できませんでした。)
2)受難の桜
昭和41、42年の羽越水害は、加治川にも大きな影響を及ぼし、破堤により新発田市内に浸水被害が発生しました。2度の堤防破堤の原因について、桜の根が堤防強度を弱めているとして、ほぼ全ての桜が伐採されてしまいました。
度重なる大規模水害は、加治川堤の桜にとって、まさに受難の時でした。
3)復活の桜 堤防復旧工事は昭和50年代後半に概ね完成しましたが、その後地元住民らからの強い要望で美しかった桜並木を復活する取組が始まりました。昭和から平成にかけて、加治川に新たな桜並木が復活しました。
4)見どころ
①水辺の散歩道 派川となった加治川両岸。ライトアップされる
②加治川治水記念公園 河川改修の竣工記念の公園。桜まつりの会場
③桜の古木 大正初めに植えられた老木が唯一現存しています。
6.周辺スポット
1)内の倉ダム
観光地としての内の倉ダムの紹介です。内の倉ダムは日本に13基しかない「中空重力式ダム」という形式です。一般的な重力式ダムとの相違は、堤体内が空洞になっていることです。その形式から以下の特徴があります。
①コンクリートで囲まれた空間は、残響音がいつまでも鳴り響きます。この特徴を活かしてコンサートが行われることもあります。
②ダム愛好家が訪れます。中空重力式ダムとしては日本第3位の堤高です。過去にはダムマニアの方が結婚式をあげられたこともあります。
③コンクリートの状況診断のため、外気にさらされていないコンクリートの経年変化の状況は極めて貴重で、暴露されている場所との比較は貴重な研究材料にもなっています。
内の倉ダムの見学は、新発田地域振興局で受け付けていますが、時期により受付を行っていない場合もあります。詳しくは新潟県HPをご覧ください。
2)特産物
新発田市は、県下有数の良質米の産地として知られていますが、その他にもイチゴ(越後姫)、ネギ(やわ肌ねぎ)、アスパラガスなどの産地となっています。
また、最近は新発田牛にも力を入れています。
3)荒川剣龍峡
荒川剣龍峡は、新発田駅から車で20分ほど、月岡温泉から荒川川上流にあります。県立自然公園にも指定されています。この周辺は砂岩質のため岩が丸みを帯びて美しい景観です。周辺は散策も可能で全長6㎞の登山道となっています。登山道は起伏に富み、初級者から中級者まで楽しめるコースです。
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第1回 令和7年(2025)10月21日
新潟県農地部 風間 十二朗
1.施設概要
位置:新潟県村上市花立458
取水量:15.7m3/s(左岸7.2m3/s、右岸8.5m3/s)
堰体:フローディング可動堰、堰長294m
可動堰:ローラゲート43.6×5.0m×5門、転倒ゲート28.0×2.3m×2門
付属設備:魚道(階段式、幅5m)、操作室、舟通し(幅2.5m)
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| 荒川頭首工の全景(左岸側下流から上流を望む) |
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| 〔荒川頭首工の仕組〕 中央に堰上げゲート、手前が転倒ゲート。河川流量に応じて各ゲートの操作を行っています。この日は河川流量が多かったため、左右岸の転倒ゲートから一定量越流し、かつ中央の堰上げゲートからも流下させています。※手前にあるのは魚道です |
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| 荒川頭首工の受益3,400ha 村上市(旧荒川町、旧神林村、旧村上市)及び胎内市に及びます |
2.村上地域の農業
村上地域の農業は、日本海に面した平野と山間地の地形を活かし、コシヒカリをはじめとする米作りと、村上牛に代表される畜産が盛んな複合経営が営まれています。主な特徴は、岩船米と呼ばれる高品質な米や、畜産物の村上牛は高級ブランド牛肉であり、稲作との複合経営を行う農家によって生産されています。
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| 岩船地域の田園風景(低平地の水田が広がっています) |
3.荒川頭首工のあらまし
荒川頭首工は、村上市(旧荒川町、旧神林村、旧村上市)及び胎内市の約3,400haの農地に用水を供給するため、国営荒川農業水利事業により昭和33年に竣工しました。その後、昭和42年8月の羽越豪雨により、花立地点で8,000m3/sという大出水に見舞われ、荒川取水堰も甚大な被害を受けました。このため建設省(当時)の直轄工事により旧施設から約280m下流に新しい取水堰が昭和48年に造成され、現在にいたっています。
荒川頭首工は、荒川沿岸土地改良区が昭和48年4月に建設省から操作委託を受けて利用していましたが、施設規模が大きいことや河川管理に与える影響を考慮し、平成3年以降新潟県が管理を行っています。
この地域は、磐梯朝日国定公園特別区域の西端に位置し、荒川渓谷の名所として観光的な役割も担っています。一方上流には赤芝ダム、岩船ダム、大石ダム等があり、これらの発電による流況の逆調整等、上流ダム群と密接な管理形成を成立し、下流域における農用地のみならず宅地等の浸水防止など、利水及び治水の両面にわたって管理されています。
4.荒川頭首工の役割
荒川頭首工は左右岸ともに取水する形式の頭首工です。受益面積は村上市の水田面積約6,400haの約半分に相当する3,400haであり、左右岸の取水口から河川の水を取水し、用水路を通って水田に水を供給しています。荒川頭首工から下流側には左岸側に約20㎞、右岸側約38kmの幹線、支線用水路が造成されています。
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| 右岸取水口とその下流。下流は何キロにもわたる用水路で水を送水しています。 |
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| 左岸取水口とその下流。左岸側は水道水にも利用し、冬期間も通水しています。 |
5.施設の管理
荒川頭首工の管理は、新潟県が管理者として管理を行っていますが、実際の管理操作は県から受託している荒川沿岸土地改良区が行っています。
土地改良区とは、土地改良法に基づいて設立された公法人で、農業用施設(頭首工、用排水路、用排水機場、農道、ため池など)を維持管理する組織で、地域農業の基盤を支える役割を担っています。
荒川の流量を把握し、きめ細かくゲート操作を行って取水量の調整を行っています。
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| 荒川頭首工管理施設 |
6.二度の災害を乗り越えて
荒川頭首工は羽越水害、令和4年8月豪雨の2度の大災害を経て、現在も稼働を続けています。過去の災害の状況は次のとおりです。
1)羽越水害
羽越水害は昭和42年8月の新潟県北部を襲った記録的な豪雨災害で、最大総雨量700mmを越える降雨により、荒川を始めとする多くの河川が氾濫し、死者行方不明者134名、被害総額1,000億円(現在の貨幣価値で約4,000億円)超の災害でした。
この災害で荒川は、各支川流域で発生した山地崩壊、土石流などにより土石、流木等が流出した結果、河川流量3.2千m3/s(花立地点)に対し、2.5倍に相当する推定8.0千m3/sの流量となり、各所で溢流氾濫し、本流沿い部落に多大な被害が発生しました。
荒川頭首工は、この時現在の位置よりも約280m上流の貝附付近に設置されており、稼働開始から9年が経過していました。この災害で、壊滅的な被害を受けたため、新しい河道計画に見合った位置として、現在の花立地内に再建設されることとなりました。
復旧された荒川頭首工は昭和48年に完成しましたが、この間の農業用水については新潟県農地部が応急復旧工事を施工し、確保しました。
(羽越災害復旧工事誌(北陸地方建設局)より引用)
2)令和4年8月豪雨
令和4年8月3日、下越地方を中心に線状降水帯が発生し、これに伴う豪雨により、本県の統計開始以来の極値を更新する記録的大雨となりました。関川村下関では累計雨量569mmとなるなど村上市、関川村、胎内市などに大きな被害をもたらしました。
幸いにも人的被害は重症者1名でしたが、被害総額は新潟県全体で約350億円に上り、うち村上市内が約200億円と6割を占めています。
この災害の特徴は、山地や森林からの流木が大量に発生し、土砂とともに荒川の支川や本川に流れ込んだことです。このため、荒川頭首工の堰上げゲート、左右岸の取水口、及びこれに接続する用水路等に堆積土、流木が大量に堆積し、取水困難となりました。
災害発生は8月上旬であり、水田への用水供給が必要な時期であったことから、暫定復旧として、堆積した土砂流木の撤去に取り掛かりました。一日でも早い通水を実現すべく24時間体制で撤去を行った結果、発災後10日後の8月14日に通水が再開され、水稲への二次被害を防止することが出来ました。
本格復旧についても、稲刈り後に着手し、翌春の作付け時には全ての用水路とほとんどの水田復旧を終え、営農への影響を最小限とすることが出来ました。
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| 豪雨時の荒川の様子(左に荒川頭首工、流木交じりの泥水が流れています) |
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| 右岸側取水口は斜面が崩れて土砂で埋まりました |
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| 左岸側取水口の様子 |
7.荒川頭首工の見どころ
荒川の清流から多くの水を取り入れている4月末から9月上旬が荒川頭首工の見ごろです。荒川の清流がキラキラときらめき、左右岸の取水口から満々と取り入れられ、接続する下流水路に水が流れていく。その流れは一見の価値があります。そして秋にはその水が豊かな実りをもたらします。荒川頭首工から水を引いている水田地域は荒川左右岸下流側に連なっており、春、夏、秋と稲の成長によって色を変る田園風景も、見る人の目を楽しませます。
8.周辺スポット
1)瀬波温泉
村上駅から車で7分、美しい海岸沿いに立ち並ぶ旅館、ホテル。おすすめは冬の瀬波。
甘海老、カニ、ブリなど日本海の幸が寒さと共に旨さを増す。地酒やコシヒカリと共に。雪景色の中、心まで温まる湯につかり、冬ならではの瀬波の魅力が満喫できます。
2)特産物
鮭のまち、村上の鮭料理は百を超える。頭から尾。内臓まですべてを使い切り調理します。はらこ、酒びたし、焼き漬け、塩引きなど本物の味わいが堪能できます。その他にも村上牛、お茶、お酒、お米など、村上ならではの特産が沢山あります。
3)農産物直売所
道の駅神林や道の駅笹川流れに併設されている農産物直売所で、地域の新鮮な野菜や特産品を購入することが出来ます。
4)松尾芭蕉の句
芭蕉は1689年、弟子の曽良を伴った「奥の細道」の旅で、村上に立ち寄りました。村上市内の各地に俳句を刻んだ石碑が佇んでいます。
しかし、この句は奥の細道の曽良の句集にも載っていないとか。
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| 芭蕉公園に刻まれている句 さはらねば汲まれぬ月の清水かな |
9.おまけ
皆さんは、分水工を知っていますか。農業用水を地域ごとに分けて水を分配する施設です。荒川頭首工のように広域に水を送水する施設には多くの分水工が設置されています。この分水工の中でも、特にその形式で人気の高いのが円筒分水工です。円形のお風呂から水がこぼれるような形状ですが、誰が見ても水の配分量が分かるようにできています。
荒川頭首工の下流域にもいくつかの円筒分水工が残っています。稲のある時期には水が流れ、きれいな分水が行われています。ぜひ、探してみてください。
乙金谷2号用水機場分水工(村上市長政地内)、平林円筒分水工(村上市平林地内)
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